飯炊きチャレンジ

結局Twitter始めました。烏丸です。
ご飯が炊けるまでにちょっとしたチャレンジというかトレーニングということで、Fallout3のDLC3「Broken Steel」の序章的なものでも書いてみることにします。
FO3をご存知でない方や未クリアの方にはネタバレがございます。特に未プレイの方に至っては意味不明となります。
プレイ済み・未クリアの方には今更感がバリバリです。
結局夕食を挟んでの書き上げです。
以上、お断りでした。
 
 
我はアルファにしてオメガ、原初にして終末である
乾く者あらば命の泉より汲みて、値なしに潤わせん
 
 
父が好きだった。父の話す母が好きだった。
だから父の後を追うことに迷いは無かった。
Vault101を追われたから、というよりも私は―――滑稽なことだけど、父と母に会えるような気がしていた。
 
放り出された荒野で、人を殺した。傷を負った。汚水を啜った。幾度となく死に掛けた。
およそ普通の人間なら耐えられるはずのないことにすら耐えてきた。
全ては父に会うため。父の力になるため。
・・・そうだ、私はただ父に褒めてもらいたかった。
一番古い記憶の中で、父まで自分の足で歩いた時のように。
10歳の誕生日、ラッドローチを仕留めた時のように。
G.O.A.Tで父の跡を継げるとわかった時のように。
 
落胆を繰り返した。
いくら追っても父の足跡は遠く、その背中が見えずにいた。
喜びがあった。
ついに私は父に追い付き、その仕事を手伝うことを決めた。
絶望が待っていた。
私の目の前で、父は死んだ。
 
―――ただ、生きた。生き延びた。
エンクレイヴの奴らを憎いとは思わなかった。そもそも憎しみや悲しみという感情すら、私は失っていた。
分厚いチャンバーのガラスの前で、考えることも感じることも無くなった。ただ一つのことを除いて。
あの時、ジェファソン記念館の中でやり残したこと。
父と一緒にやった、最後まで出来なかったこと。
それだけが私を突き動かしていた。他に何も無かった。
・・・これが終わったら? そんなことを考えることも。
 
再びあのチャンバーの前に辿り着いたとき、私は"選択"をしなかった。
これは私がすべきことだと信じて疑わなかった。
サラやフォークスがやるべきことだなんて欠片も考えなかった。むしろ、それは不自然にしか思えなかった。
死など怖くなかった。むしろそれが私の望みだった。
この場所から彷徨い始めた私という名の亡霊は、ここであるべき姿に戻るのだと。
常軌を逸した放射線に体を貫かれながら、私はただ幸せだった。
―――ちゃんとできたよ、お父さん。
ただそれだけを、思いながら。
 
 
 
有り得ない目覚めだった。何かの間違いとしか思えなかった。
生きている。生きてしまっている。
ブラザーフッドの要塞で意識を取り戻した私は、亡霊ではない。しかし、生きている気がしない。
まだ動く自分の体を、そしてまだ考える意識を、私は信じられずにいた。
エルダー・リオンズの話は意味を持って、しかし耳を素通りしていく。
エンクレイヴの残党が未だに暗躍していること。
水精製施設の稼動に成功し、キャピタル・ウェイストランド全土への水の配給が始まったということ。
一つ目は心底どうでもいい。二つ目は・・・なぜかと言うべきなのか、やはりと言うべきなのか、私に何の感情ももたらさなかった。
関係ない。私はもう終わった人間だ。これ以上何もさせないで。
言葉になったかもわからない呟き。老人は哀れみとも苦渋ともとれる表情を見せたが、それ以上は何も言わなかった。
体は動いた。何の問題も無く。そのことがより一層現実感を遠ざけていく。
 
リオンズは要塞を去る私に、タイダルベイスンに行くといい、とだけ言った。
どちらにせよ通る場所だ。行き先など決まらない、必要のない私には一応の目安にはなった。
このままどこまでも行こう。もし私が生きているのならいつかは野垂れ死ぬ。死んでいるのなら・・・永遠に彷徨うだけ。
どちらでも構わない。今度こそ終わりを迎えよう―――。
錆の浮いた鉄橋を越える。そこで私は足が止まった。
イオンにも似た、だけど比較にならないほど柔らかな匂い。
この世のものとは思えない、遠くから響く轟音。
その音の元は、ジェファソン記念館から伸びた巨大なパイプから迸る飛沫だった。
飛沫が落ちていくタイダルベイスンは、川底が見えるほどに澄んでいる。
よろけるように一歩を踏み出した。もう一歩。もう一歩。4歩目からは小走りになり、いつしか私は川縁へと駆け出していた。
恐る恐る、川へと近付く。Pip-Boyのガイガーカウンターは沈黙したままだ。
膝を就いて水を両手で掬う。何かに誘われるように、それを口へと運んだ。
―――美味しい。
Vaultの中や旅で見つけた蒸留水とは違う、味は無いはずなのに確かな味がする。
涙が、溢れた。
 
お母さん。これが、あなたが夢見た「命の泉」なんだね。
お父さん。これが、私と一緒にしてきたことなんだね。
 
私の中で凍っていたものが、音を立てて溶けていくような気がした。
嬉しいのか、悲しいのか分からない。あまりに多くの感情が一気に押し寄せてきて、もうどうにもならなかった。
ただひたすらに泣き続けた。果てしなく広がる、清浄な大河のほとりで。
 
 
ベイスンが夕日を照り返して赤く輝く頃、私は立ち上がった。
私は、生きている。何度も死に掛けて、それでも死なずここにいる。
私はアルファであり、オメガである。始まりであり、終わりである。
始まりが終わりなら、終わりは始まりでもある。
父の、母の夢を継ぐための生き方は終わった。ここからは、私の生き方が始まるんだ。
さて、何をしよう? ウェイストランドは広い。その外側にだって、まだ世界は広がっている。
だけど今はまだ、ここでするべきことがある。
エンクレイヴ。父を死に追いやり、母の夢を利用しようとした奴ら。私だって何度も殺されかけた。
仕返ししてやる理由は充分じゃないか。
私は来た道を引き返す。
夜へと立ち向かうように東へ。要塞へ。
私自身の、戦いへ。